(No.17) ばけくらべ

 

 昔、昔、山のふもとに『ごんべい』というたぬきと、『おはな』というきつねが住んでいました。ある日のこと… ごんべい「やあ、これはこれはおはなどん。ひとつおいらと、ばけくらべをしないかい」 おはな「それなら明日、お宮の境内に来てちょうだい。でも、勝つのは私よ、おほほほほ」 ごんべい「ふん、生意気なきつねだ」 さあ次の日、きつねは「エイ!」と呪文を唱えると、たちまち若い娘に変身しました。なかなかの美人です。  お嫁さんに化けたおはながお宮の前までやって来ると… おはな「あっ、おいしそうなおまんじゅう!」(あまりおまんじゅうがおいしそうなので、おはなは思わずつばをごくりと飲みこみました。) 「誰も見ていないし…。ようし、今だわ。いただきまーす!」 おはな「あーっ、あんたはごんべい!」 ごんべい「やーい、まんまとだまされたな、おはなどん」 (おまんじゅうは、ごんべいが化けていたのです。) おはな「よくもだましてくれたわね、ごんべい」 ごんべい「わっはっは、食いしん坊なきつねめ。この化けくらべはおいらの勝ち!」 おはな「もう、くやしいー。」  恥ずかしくなったきつねの『おはな』は、しっぽをしまうのも忘れて逃げ出しましたとさ。 * * * 「心に満ちていることを口は話すのです。良い人は良い倉から良い物を取り出し、 悪い人は、悪い倉から悪い物を取り出します。」と言われているとおりです。どんなに立派な人のようにふるまっていても、いざという時には、きつねの『おはな』のように本性が出てしまいます。芝居は所詮芝居です。 『ごんべい』や『おはな』のように、ばけくらべをしながら一生を終える人も多いでしょう。しかし、内側が変われば外側もおのずと変わります。自分の生き方が根本的に変われば、芝居の人生はもう必要なくなるのです。


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