(No.14) 本物に触れる

 

 歌舞伎の名優菊五郎は、着ている衣装で役割を演じ分けるのは愚かであると言い、裸で稽古したそうです。  人間の魅力はその人の本音が出たときに現れるものです。作家の三浦綾子さんが信仰を持つきっかけとなったのは、同じ闘病生活を送っていた前川正さんの真実な心に触れたことによります。自分の足を石でゴツンゴツンと打ち続ける姿の中に、彼がどんなにか自分のことを心配していてくれたかを三浦さんは知ったのでした。  一人のおばあさんは、治安維持法によって思想の自由を締めつけられた時代に、どこへ行くにも刑事がつきまとい、 つらい経験をしました。しかし、この法が解除され、特高刑事が駅から自分の郷里に帰るとき、駅まで見送りに行き、皮肉でなく心から、「長い間お役目ご苦労様でした」と言ったそうです。  どうしたらこのような魅力を培えるのでしょうか。 ①〈いつも本物に触れていく〉  銀行員が偽札を見分けられるようになるのは、種々の偽札を見て覚えているからではありません。そうではなく、朝から晩まで、いつも本物だけを見せられ、触れさせられて体得していくのです。本物を知っているから偽物が分かるのです。  今の時代は外面だけを整えた偽物が氾濫しています。 自分自身を磨くためには本物に出会い、本物に触れる必要があります。 ②〈知的に納得するだけでなく、体で訓練する〉  いくら泳ぎ方の講義を聞いても一度も水の中に入らなかったらその人は泳げません。  生活の現場の中で、失敗し、恥をかき、挫折しながらも、それにめげないで何度でも成功するまで挑戦することです。成功するまで続ければいいのです。魅力的な人間はそのようにして作られるのです。

 
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