(No.2)おい、本が逆さまだ!

 

 「近頃日本語がおかしい。『すごい美味しい』なんて文法的にありえない!」と私が言うと、「言葉は時代とともに変化していくものでしょ!あなたの頭が固いのよ」と妻。確かにおっしゃるとおり。  山形県米沢興譲教会の田中信生牧師が、彼の著書の中でこんな興味深い体験談を書いておられる。 《私がアメリカに留学していたとき、そこには世界中あちらこちらから集まった学生たちが英語を勉強していました。その中の一人で、中近東から来た学生が、英語の本を上下さかさまにして読んでいるのを見ました。私は「よくわからないくせにわかっているようなふりをして…」と思いながら、「おい、本がさかさまだよ」と注意しました。  ところが彼は「それがどうした」と言うのです。びっくりして見直しても、本は確かにさかさまですから、「本というのはこっちから見るものじゃないか」と言うと「こっちから見ちゃ悪いか」と答えます。  よく聞いてみると、彼の国では先生が地面に座ると、生徒たちがその周りをぐるりと囲んで勉強するのだそうです。それで生徒たちは360度、どの角度からでも字が読めるというのです。  彼から「本には向きが一方しかないと思うそちらのほうがおかしいんじゃないか」と言われた時はショックでした。そして何となく彼をばかにしていた気持ちを恥ずかしく思ったものです。》 (「人を生かす伝道法」いのちのことば社 14~15ページ)  私たちは普段なにげなく、自分の常識を基準にものを考えている。自分と他人を比べて違っていれば「あの人はちょっとおかしい」と言う。しかし自分もまた相手からそう思われているかもしれない。自分の常識が絶対正しいと言い張るのは“ワガママ”というものであろう。お互い気を付けたいものである。

 
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