昔、ある所にたいそう怠け者の馬がおった。
馬は荷物を背負って馬子に引かれて歩いていたかと思うと直ぐに疲れたと言ってへたばってしまう。そこで仕方なしに馬子は馬の背から荷を下ろし、自分で背負って馬を引いて歩いて行くのであった。
その様子を遠くで見ながら村人たちは「あれでは馬と馬子とが反対じゃわい」と言って笑った。
ある日、塩を運ぶ仕事を仰せつかって馬子と馬は旅に出た。しばらく進んで行くと川があった。橋のある所までは随分と距離があった。そこで川の浅瀬を選んで渡ることになった。
川の半ばを過ぎた所、馬は深みに足をとられて転んでしまった。するとどうじゃろう。背負っていた塩俵は水につかり中の塩はみるみるうちに溶けて流れ出ていった。
荷の軽くなったのに気づき、馬は喜んで歩き出した。
「これはいい。水の中で転べば荷は軽くなる…」
塩の届け先で馬子はひどく叱られた。
馬子は庄屋から別の荷をあずかった。今度の荷物はたいそう大きかった。なまけものの馬は山のような荷を背負わされた。
「今度の荷物は軽いじゃろう」
馬子はそう言って馬を引いていった。
しばらく進んで行くとまた川に差しかかった。馬はしめたと思った。川を渡りかけたなまけものの馬は今度はわざと川の深みに足を入れ転ぶしぐさをした。すると背中の荷物は急に重くなった。荷物の綿が水を吸ったのだ。馬はその重みに絶えかねて踏み止どまることが出来ず流されていった。
馬子は馬を助けようと水の中に飛び込み、腰から小刀を取って馬の背中の荷紐を切った。荷物は流れていった。馬はやっとのことで助かった。
荷物を川に流してしまった馬子は庄屋にこっぴどく叱られた。
「そんな役たたずの馬は殺してしまえ」
庄屋は鞭をとって馬を叩き始めた。
「お許し下さいまし。お許し下さいまし」
馬子は我身を投げ出してなまけものの馬をかばった。庄屋に鞭で何度も何度も叩かれる主人を見ながら、なまけものの馬はなんともすまないと思った。こうまでして自分を助けようとしている御主人様にすまないことをしたと思った。
その日以来、馬は働きものになった。荷が重いと言って座りこむようなことは決して二度となかった。誰もが見違えるような働きものになった。